2012年の主な彗星の光度変化

2013年6月15〜16日 第43回彗星会議 in 福島

吉田 誠一 / Seiichi Yoshida
comet@aerith.net
http://www.aerith.net/

『大彗星、現る。』
吉田誠一、渡部潤一
KKベストセラーズ
2013年6月21日刊行

■目次

■肉眼彗星

●C/2011 L4 ( PanSTARRS )

光度変化の観点からは、大きく、4つの時期に分かれます。

(1) 2011年6月〜2012年3月(8 a.u.→5.5 a.u.)

m1 = -1.8 + 5 logΔ + 18.0 log r
発見から1年近くもの間、急激な増光を続けました。

(2) 2012年3月〜2012年11月(5.5 a.u.→2.5 a.u.)

m1 = 4.0 + 5 logΔ + 10.0 log r
ごく一般的な増光でした。

(3) 2012年11月〜2013年2月20日(2.5 a.u.→0.6 a.u.)

m1 = 5.5 + 5 logΔ + 6.5 log r
増光が鈍り、最大で3等止まり、と予想されました。

(4) 2013年2月20日〜(0.6 a.u.→0.3 a.u.)

m1 = 5.3 + 5 logΔ + 8.0 log r
近日点の直前になって、唐突に増光しました。

●C/2012 F6 ( Lemmon )

最大9.5等のはずが、4.5等の肉眼彗星となりました。

e = 0.9985 の楕円軌道です。 周期の長い楕円軌道の彗星は、おたまじゃくし型の姿で、急激に増光する彗星が多いです。 この彗星もそうでした。

m1 = 4.5 + 5 logΔ + 18.0 log r

但し、日心距離が 1.2 a.u. の時点で、増光が鈍りました。

■明るくなった新彗星

●C/2012 K5 ( LINEAR )

1つ目のリニア彗星です。

この彗星も、急激に増光しました。 e = 0.9984 の楕円軌道ですが、おたまじゃくし型ではありませんでした。

m1 = 9.5 + 5 logΔ + 13.0 log r

●C/2012 L2 ( LINEAR )

2つ目のリニア彗星です。

この彗星も、e = 0.9973 の楕円軌道です。一般的な彗星の増光でした。

m1 = 8.5 + 5 logΔ + 10.0 log r

●C/2011 UF305 ( LINEAR )

3つ目のリニア彗星です。

q = 2.1 a.u. と遠方ですが、この彗星も、急激に増光しましたが、軌道は双曲線です。

m1 = 2.5 + 5 logΔ + 22.5 log r

●C/2011 F1 ( LINEAR )

4つ目のリニア彗星です。

近日点通過の頃に、突如として、4〜5等も暗くなってしまいました。

それまで、何も予兆はありませんでした。
q = 1.8 a.u. で、太陽には接近しませんでした。
減光した後の姿を見ても、異変が起きた様子は見られません。

■明るくなった周期彗星

●273P/1827 M1 = 2012 V4 ( Pons-Gambart )

188年ぶりに再発見されました。 期待していたほどの大彗星にはなりませんでした。

発見時は5.5等になりましたが、今回は8.5等止まりでした。

周期の長い楕円軌道の彗星らしく、log r の係数が大きいです。

近日点を通過してから10〜15日ほど後に最大光度となりました。
発見時も同じ傾向だったとすると、光度変化は良く一致します。

m1 = 8.2 + 5 logΔ + 15.0 log r(t - 15)  ※発見時
m1 = 9.0 + 5 logΔ + 20.0 log r(t - 10)  ※今回

●168P/Hergenrother

予想外の急増光をして、8等にまで達しました。

60 log r という異常なペースで急増光を続けた後、近日点の直前になって、さらに一段と急増光しました。

過去の出現との連結軌道では、非重力効果が A1 = +2.68 と大きく計算されています。

●185P/Petriew

2001年に発見されたばかりの明るい周期彗星ですが、過去3回の出現では、同じ光度変化を示しています。

木下一男氏の計算では、1984年には既に、q = 1.0 a.u. の軌道に降りてきていたはずです。

以下の特徴があります。

●260P/2005 K3 = 2012 K2 ( McNaught )

発見時は14等止まりでしたが、今回は11等まで達しました。

木下一男氏の計算では、特に軌道が変化した訳ではありませんが、彗星が不安定になっているのかもしれません。

m1 = 12.0 + 5 logΔ + 14.0 log r  ※発見時
m1 = 9.5 + 5 logΔ + 25.0 log r  ※今回

●262P/1994 X1 = 2012 K7 ( McNaught-Russell )

近日点の直前になって急増光し、10等に達しました。

但し、5月末に検出されてから、11月に急増光を始めるまでは、ずっと天の川の中にいました。 拡散した姿だったので、暗く見積もられていた可能性もあります。

拡散した姿だったので、1994年の発見時も、今回と同じく、10等で見えていたのかもしれません。

●96P/Machholz 1

今回も、いつも通りの光度変化でした。

5年という短い周期で、q = 0.12 a.u. と、極端に太陽の近くを通る彗星ですが、今のところ、衰退する様子は見られません。

m1 = 12.7 + 5 logΔ + 12.0 log r

■見逃されていた彗星

●C/2013 E2 ( Iwamoto )

徳島県の岩本雅之氏が発見された彗星です。

急減光せず、明るい状態を保っていますので、バーストして発見された訳ではありません。
12月から明るく見えていたはずです。

●C/2012 Y3 ( McNaught )

南半球では、2012年の夏から秋まで、長いこと13等の明るさで見えていたはずです。

■特異な光度変化を示した彗星

●C/2006 S3 ( LONEOS )

q = 5.1 a.u. と、非常に遠方の彗星で、ゆっくりとした光度変化をしていたのですが、近日点に来て、加速度的に明るくなりました。

遠方の彗星には、近日点を通過した後で最大光度になる傾向がしばしば見られます。この彗星もそうかもしれません。

●C/2012 T5 ( Bressi )

H10 = 12.5等と小型で、近日点距離が 0.3 a.u. と小さいため、消滅すると予想されていました。 予想どおりに消滅しました。

小林壽郎氏が、3月8日に、残光を捉えた可能性があります。
また、3月21日には、核光度で18等との報告がありました(958)。

●C/2012 CH17 ( MOSS )

6月までは、拡散したコマの中にも、集光がしっかり見えていました。

7月には集光が無くなり、8月には残光だけとなりました。

q = 1.3 a.u. です。

●C/2011 U3 ( PanSTARRS )

13等になると期待されていた彗星ですが、消滅したようです。

q = 1.07 a.u. です。

●189P/NEAT

地球に非常に接近(0.17 a.u.)するため、そこそこ明るく観測されますが、絶対光度が17〜18等の、非常に小さな彗星です。

今回は、近日点を通過した後に、少し明るくなりました。 2002年の発見時も、前回2007年も、このような傾向は見られませんでした。

但し、ほとんど恒星状の姿なのに、光度のばらつきが異様に大きいことが気になります。
過去の回帰と同じ、10 log r の光度変化をした、と報告している観測者の方が多いです。

m1 = 17.0 + 5 logΔ + 17.5 log r(t - 35)

●261P/2005 N3 = 2012 K4 ( Larson )

発見時も今回も、40 log r という、非常に急激な増光を示しました。 また、近日点を通過して、40日ほど後に最大光度になっています。

m1 = 2.5 + 5 logΔ + 40.0 log r(t - 40)

●P/2012 S2 ( La Sagra )

近日点通過後に発見され、その後も増光し続けました。

近日点を通過した後に最大光度になるタイプなのか、単なるバーストなのかは、次回の回帰で明らかになると思います。

●P/2012 US27 ( Siding Spring )

小惑星として発見されましたが、急増光し、近日点を通過した後も増光が続きました。

この彗星も、急激な増光をするタイプなのか、単なるバーストなのかは、次回の回帰で明らかになると思います。

■光度変化のパターンが変化した周期彗星

●117P/Helin-Roman-Alu 1

光度変化が非対称で、近日点を通過した後に明るくなる傾向がありました。 ですが、今回帰では、予報より速いペースで明るくなっています。

近日点通過後に増光する傾向が、無くなったのかもしれません。

m1 = -0.5 + 5 logΔ + 25.0 log r(t - 300)  ※前々回
m1 = 3.0 + 5 logΔ + 18.0 log r(t - 140)  ※前回
m1 = 3.0 + 5 logΔ + 18.0 log r  ※今回

●152P/Helin-Lawrence

光度変化が非対称で、近日点を通過した後に明るくなる傾向がありました。 ですが、今回は、近日点通過後には、予報より暗く観測されています。

近日点通過後に増光する傾向が、無くなってきているのかもしれません。

m1 = 10.0 + 5 logΔ + 10.0 log r(t - 250)  ※前回
m1 = 3.5 + 5 logΔ + 22.0 log r(t - 100)  ※今回

■小惑星のような周期彗星

●P/2010 R2 ( La Sagra )

静穏時は、H = 17.5 の小惑星のようです。

●P/2012 F5 ( Gibbs )

静穏時は、H = 15.0 の小惑星のようです。

●P/2010 A2 ( LINEAR )

こちらは、本体は H = 21.3 の小惑星のはずです。検出されていません。

※佐藤英貴氏より、P/2010 A2 ( LINEAR ) は、2012年10月14日に観測されているとの情報を頂きました。

Large Particles in Active Asteroid P/2010 A2
David Jewitt, Masateru Ishiguro, Jessica Agarwal
http://arxiv.org/abs/1301.2566

●2011 CR42

2011年3月に彗星活動を見せた天体です。

絶対光度は、H = 15.0 以下のようです。

■アウトバーストした周期彗星

●37P/Forbes

2012年9月20日に、Jean-Francois Soulier氏によって捉えられました。 15.9等まで明るくなりましたが、短期間で元に戻りました。

●197P/LINEAR

2013年4月16日に、佐藤英貴氏によって捉えられました。 16.1等まで明るくなりましたが、短期間で元に戻りました。

■その他の彗星

●17P/Holmes

遠日点でも22等で観測されました。

現在、18等です。このまま、夏まで18等で停滞していれば、通常の光度に戻ることになります。

■最後に

●C/2012 S1 ( ISON )

『大彗星、現る。』
吉田誠一、渡部潤一
KKベストセラーズ
2013年6月21日刊行

絶対光度が5.5等と大型にもかかわらず、近日点距離が0.012 a.u.と、極端に太陽に接近します。
※C/2011 W3 ( Lovejoy ) は、絶対光度は15等でした。

日心距離は、8.5 → 3.5 a.u.まで近づいてきました。

2013年に入ってからは、光度は停滞しています(5 → 3.5 a.u.)。
それでも、H10 = 7.0等なので、最大光度は-10等を超えます。