2013年の主な彗星の光度変化

2014年6月7〜8日 第44回彗星会議 in 松山

吉田 誠一 / Seiichi Yoshida
comet@aerith.net
http://www.aerith.net/

■目次

■世紀の大彗星

●C/2012 S1 ( ISON )

小さなバーストを起こしながら太陽に近づいていきましたが、近日点の数時間前に崩壊しました。

期間日心距離光度式
2011年9月〜2013年3月9.4 → 4.35 a.u.m1 = 5.5 + 5 logΔ + 10.0 log r
2013年3月〜2013年11月4.35 → 0.012 a.u.m1 = 8.0 + 5 logΔ + 7.5 log r

過去の大彗星と比べてみます。

●遠方での光度変化

彗星q日心距離光度式
C/2006 P1 ( McNaught )0.173.1 → 1.8 a.u.m1 = 4.0 + 5 logΔ + 17.5 log r
C/2011 W3 ( Lovejoy )0.0056  → 0.76 a.u.
C/2012 S1 ( ISON )0.0124.35 → 0.012 a.u.m1 = 8.0 + 5 logΔ + 7.5 log r

●近日点通過直前の光度変化

彗星qΔT光度式
C/2006 P1 ( McNaught )0.1719日前〜m1 = 6.4 + 5 logΔ + 14.0 log r(t - 1.4)
C/2011 W3 ( Lovejoy )0.005619日前〜m1 = 15.5 + 5 logΔ + 15.0 log r
C/2012 S1 ( ISON )0.012
m1 = 8.0 + 5 logΔ + 7.5 log r

●近日点通過後の光度変化

彗星q光度式備考
C/2006 P1 ( McNaught )0.17m1 = 3.8 + 5 logΔ + 10.0 log r
C/2011 W3 ( Lovejoy )0.0056m1 = 11.0 + 5 logΔ + 15.0 log r※核は崩壊済み
C/2012 S1 ( ISON )0.012m1 = 12.5 + 5 logΔ + 10.0 log r※核は崩壊済み

■明るくなった新彗星

●C/2013 R1 ( Lovejoy )

近日点前は急激に増光しましたが、近日点後の減光のペースは遅く、急激ではありません。

m1 = 6.7 + 5 logΔ + 15.0 log r  ※近日点前
m1 = 6.3 + 5 logΔ + 10.0 log r  ※近日点後

この傾向は、C/2012 F6 ( Lemmon ) と似ています。

彗星qe近日点前近日点後
C/2013 R10.8120.998415.0 log r10.0 log r
C/2012 F60.7310.998518.0 log r9.5 log r

●C/2012 V2 ( LINEAR )

急激に増光して、8等になりましたが、残念ながら、南半球でしか見えませんでした。

m1 = 3.6 + 5 logΔ + 20.0 log r  ※近日点後

●C/2012 X1 ( LINEAR )

近日点の4ヶ月以上も前の10月に、バーストを起こして急増光しました。
いったん、17P/Holmes のように拡散した後、12月から、再び活発化しました。

この傾向は、近日点の半年も前にバーストを起こした、52P/Harrington-Abell と似ています。

●C/2013 N4 ( Borisov )

q = 1.2 a.u. で、観測条件が悪いままでした。
17.5 log r と、急激に減光しました。

●C/2013 V3 ( Nevski )

発見直後に、1週間で約5等も急増光しました。
その後は、35〜55 log r のペースで急激に減光しました。

■明るくなってきた新彗星

●C/2014 E2 ( Jacques )

急激に増光中ですが、q = 0.66 a.u. なので、やがてペースは鈍ると思います。

m1 = 6.0 + 5 logΔ + 15.0 log r

●C/2012 K1 ( PanSTARRS )

やや増光が鈍いです。

m1 = 5.5 + 5 logΔ + 8.5 log r

●C/2013 UQ4 ( Catalina )

急激に彗星活動が活発化しました。

Michael Mattiazzo氏の観測:
日付光度日心距離
3月1日17.5〜18等2.2 a.u.
4月26日13.5〜14.0等1.6 a.u.

m1 = 9.5 + 5 logΔ + 17.5 log r

■明るくなった周期彗星

●2P/Encke

いつも通りでした。

●154P/Brewington

前回2003年と同様に、50 log r に沿って、急激に増光しました。

ただ、前回2003年は、早い段階から明るく観測されていましたが、今回は、直前まで暗いままでした。

●63P/Wild 1

小さなバーストを繰り返したようですが、光度グラフでは良く分かりません。

●290P/1998 U3 = 2013 N1 ( Jager )

発見時には及びませんが、明るくなりました。

m1 = 5.5 + 5 logΔ + 20.0 log r

●134P/Kowal-Vavrova

概ね予想通りでした。

■話題になった彗星

●C/2014 C2 ( STEREO )

絶対光度が18.5等の、小さい彗星です。
q = 0.51 a.u. まで、太陽に近づきましたが、消滅はしませんでした。
近日点の8日後に最大光度となりました。

探査機ステレオでは、前方散乱によって、3.8等の明るさで記録されました。

Colin Drescher氏によれば、12月下旬の数日間、SWANの画像に約11等で見えていたとのことです。
但し、この光度から単純に計算すると、絶対光度は8.5等となります。

●289P/1819 W1 = 2003 WY25 ( Blanpain )

2013年7月4〜19日のわずかな期間だけ観測されました。
絶対光度は20.5等で、予想光度は26等でしたが、17等まで増光しました。

8月28日に近日点を通過しますが、23等以下です。
2003年には14等になったはずですが、今後100年の間には、17等より明るくなることは二度とありません。

■軌道の小さい短周期彗星

軌道の小さい短周期彗星は、近日点の近くで急増光・急減光し、ごく短期間のみ明るく見られます。

●26P/Grigg-Skjellerup

●169P/NEAT

●300P/2005 JQ5 = 2014 G2 ( Catalina )

●P/2013 CU129 ( PanSTARRS )

この彗星はダストリッチな姿をしており、枯渇しかけている彗星には見えませんが、光度変化は、2P/Encke などと良く似ています。

2P/EnckeP/2013 CU129
Michael JagerDamian Peach

●209P/LINEAR

光度変化は、非常に特異な光度式になります。
H = 16等の小惑星としての光度変化に近いですが、近日点では、それよりも明るくなります。
発見以来、3回の回帰で、同じ光度変化を見せています。

m1 = 18.0 + 5 logΔ + 2.0 log r

■急減光した彗星

●C/2013 G5 ( Catalina )

絶対光度が14.0等、q = 0.93 a.u. の彗星ですが、消滅しました。

●C/2012 V1 ( PanSTARRS )

絶対光度が11.5等、q = 2.1 a.u. の彗星ですが、減光しました。

●C/2013 O3 ( McNaught )

一時的なバーストだったと思われます。

■特異な光度変化をした新彗星

近日点通過と、最大光度となる時期が、ずれている彗星が多くあります。

※光度変化の傾向が分かりやすいように、縦軸には、太陽から見た光度(日心光度)をプロットしています。

●C/2012 K6 ( McNaught )

m1 = 4.2 + 5 logΔ + 15.0 log r(t - 100)

●C/2012 X2 ( PanSTARRS )

m1 = 4.5 + 5 logΔ + 15.0 log r(t - 150)

●C/2013 F3 ( McNaught )

m1 = 6.5 + 5 logΔ + 25 log r(t + 60)

●C/2013 G6 ( Lemmon )

m1 = 0.3 + 5 logΔ + 40.0 log r(t - 35)

●P/2012 B1 ( PanSTARRS )

m1 = 3.0 + 5 logΔ + 17.0 log r(t - 100)

●283P/2013 EV9 ( Spacewatch )

m1 = 11.0 + 5 logΔ + 20.0 log r(t - 100)

■特異な光度変化をした周期彗星

●84P/Giclas

近日点の4ヶ月後に最大光度となる傾向があります。今回も例年通りでした。

m1 = 8.5 + 5 logΔ + 25 log r(t - 123)

●98P/Takamizawa

非常に急激な増光が、近日点を過ぎても続きました。

m1 = 7.0 + 5 logΔ + 37.0 log r(t - 30)

●175P/Hergenrother

非常に急激な増光が、近日点を過ぎても続きました。

m1 = 9.5 + 5 logΔ + 20.0 log r(t - 50)

●184P/Lovas 2

過去2回の出現は、いずれも近日点通過後しか観測されていませんでした。
この彗星も、近日点通過後に最大光度となる、非対称な性質があるようです。

m1 = 16.0 + 5 logΔ + 10.0 log r(t - 100)

●284P/2007 H1 = 2013 J1 ( McNaught )

2007年の発見時と比べて、2〜3等ほど暗くなりました。

●291P/2003 S1 = 2013 N2 ( NEAT )

急増光する傾向がありますが、発見時とは異なる光度変化を見せました。

m1 = 7.7 + 5 logΔ + 20.0 log r(t + 55)  ※発見時
m1 = 1.0 + 5 logΔ + 35.0 log r      ※今回

●292P/1998 Y2 = 2013 O1 ( Li )

かなり暗く検出された後、急増光して、発見時とほぼ同等の明るさになりました。

m1 = 2.5 + 5 logΔ + 30.0 log r

●P/2005 L1 ( McNaught )

減光したようです。

発見時も、近日点前の2005年のみ観測され、ほぼ同じ条件だった2006年には観測されませんでした。