MISAO Project

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1998年11月 1日

    9月12日の美スターサーベイ    

MISAOプロジェクト・アナウンスメイル (1998年11月1日)

MISAOプロジェクトの吉田誠一です。

今月上旬に天体画像自動検査システムPIXYをデザインし直し、10月11日版とし て公開しました(現在の最新版は10月30日版)。

今回の修正は主に、システム内部に関する

  • プログラムソースのデザインを全体的に再設計
  • マッチング及びペアリング処理の改良
の2点ですが、ここでは触れません。将来、PIXYシステムの技術的な手法をま とめたテクニカルノートと、プログラムソースを解説したクラスリファレンス をWWWで公開する予定ですので、そちらをお待ち下さい。

利用者から見た外見上の修正点は、元画像、検出星像の星図、同領域のカタロ グ星図、それとコントロールパネルの4つをそれぞれ独立したウィンドウに分 けたことです。おかげで操作性がだいぶ良くなりました。

さて、1998年9月12日に、第4回美スターサーベイを行いました。この時は曇が ちで、広角レンズでサーベイができたのは事実上03:10から04:30までの1時間 20分だけでした(しかも薄明開始が03:55でした)が、

f/ 24mm3枚
f/ 35mm26枚
f/180mm5枚

の合計34枚のサーベイ画像を得ることができました。また、300mm望遠レンズ で彗星なども撮影し、8枚の画像を得ました。全部で42枚の画像です。

10月30日版のPIXYシステムを使って、これらの画像を検査した結果を紹介しま す。上記の42枚の画像すべてを検査するのに、PentiumPro 180MHzのWindows95 マシンで4時間10分かかりました。尚、これはPIXYシステムだけの処理時間で、 既知変光星との自動同定システムの時間は含んでいません。各焦点距離ごとの、 画像1枚あたりの平均実行時間は次の通りです。

焦点距離時間平均恒星数画角
f/ 24mm12.5分200031.8 x 21.2°
f/ 35mm6.0分180021.9 x 14.6°
f/180mm5.1分31004.4 x 2.9°
f/300mm3.9分20002.6 x 1.8°

実は、10月11日版のPIXYでは、広角レンズの場合に極端に時間がかかっていま した。10月30日版では実行時間が約半分くらいに抑えられるようになりました が、広角レンズの場合の方が時間がかかる傾向は残っています。これは、GSC の読み込みに非常に時間がかかることが原因です。例えば、35mmレンズによる 画像は画角が22×15度もあるため、PIXYでは、まずマッチングのために44×44 度の範囲から、次いでペアリングのために33×33度の範囲から恒星データを読 み込みます。GSCではインデックスが付いており、特定の領域のデータを高速 に検索できるようになっていますが、広角の場合にはその効果を期待できませ ん。実際、35mmレンズの場合の実行時間の約半分はGSCの読み込みに費やされ ています。尚、この結果はGSCをすべてハードディスク上に置いた上での値で、 CD-ROMから読み込む場合は更に時間がかかることになります。

尚、実際には35mmレンズによる画像には、11〜13等までのおよそ数千から1万 個以上の星が写っています。しかし、PIXYシステムはメモリ不足とならないよ うに、画角に応じてカタログから恒星を読み込む等級を制限しています。具体 的には、35mmレンズの場合は9.6等までの恒星データが読み込まれます。その ため、画像に写っていた9.6等以下の星はすべて無視されてしまっています。 ここでは取り敢えず画像に明るい新星が写っていないかどうかの検査を主目的 としているため、極限等級ぎりぎりまで星を検出する方法を採っていないと考 えて下さい。

これらの画像からPIXYシステムによって見つかった要注意天体の個数は次の通 りでした。

焦点距離枚数NDNCRMRP
f/ 24mm335(12)55(18)38(13)109(36)
f/ 35mm26307(12)232( 9)436(17)1458(56)
f/180mm537( 5)33( 7)161(32)439(88)
f/300mm860( 8)41( 5)175(22)385(48)

括弧内の数値は1枚あたりの平均の個数です。ND, NC, RM, RP は、それぞれ

ND:カタログにない星が写った
NC:カタログにある星が写らなかった
RM:カタログに記載されている光度と違った
RP:カタログに記載されている位置と違った

という意味です。これらの天体は通常、

ND:新天体、変光星、もしくはカタログの記載もれ
NC:変光星、もしくはカタログのエラー
RM:変光星
RP:固有運動による位置のずれ

と解釈されます。但し、実際には

ND:雲や地上風景、ゴーストなどの誤検出
RM:感光域の違いによって光度が違ったか、もしくはPIXYシステムの測定エラー
RP:(広角の場合)単なるペアミス
(狭角の場合)星雲状天体で、カタログ掲載値もPIXYシステムの測定値もともに精度が悪い

ということが多く、出力された要注意天体の扱いには注意が必要です。勿論、 新天体の捜索のためには、既知変光星かどうかのチェックも必要です。

また、広角レンズによる画像の場合は別の問題も発生します。前述した通り、 メモリ不足とならないようにGSCから読み込む光度を制限しています。具体的 には、35mm画像の場合は9.6等で制限されています。ここで、3つの近接した星 (カタログ掲載光度は9.7等, 9.8等, 9,9等)があったとします。これらは35mm レンズの画像にはすべて充分写っている明るさです。しかし、非常に近接して いるため、PIXYシステムによって1つの星像として検出されてしまうことがあ ります。この時の光度測定値は3つの星の合成光度である8.6等程度となります。 測定誤差や感光域の違いなどで、これが8.0等と見積もられたとしましょう。 しかし、これらの3つの星はいずれも制限より暗いため、GSCからPIXYシステム には読み込まれません。結果として、この星像は8.0等という明るい新天体候 補として出力されてしまいます。もし3星のうちの1つが9.5等だったとすると、 3つのうちの1つだけが読み込まれ、結果として9.5等星が8.0等と増光したと見 倣されてしまいます。

ここで、9月12日サーベイの画像から見つかった要注意天体の調査結果を紹介 します。いろいろと面白いことが分かりました。

24mmレンズでの撮影はいずれも薄明開始後のもので、空はだいぶ明るくなって きていました。それでもPIXYによって、8.5等までの星が検出されました。実 際にはGSCから8.7等までの星しか読み込んでいないため、更に深く検査すれば、 もっと暗い星まで検出できる可能性があります。これは、薄明中の新天体発見 の可能性を強く支持します。

180mmレンズや300mmレンズ等、焦点距離の長いレンズでフィルターを付けずに 撮影すると、彗星状にぼけた星像が大量に見られるようになります。これらは、 CCDが赤外に強く感度を持っていることと、通常のカメラレンズが可視光と赤 外でのピント位置が違うことによるために、赤い星が収差でぼけているのだと 思われます。赤外カットフィルターを付けて撮影すると、これらの星像はすべ て点状になります。目で見て分からなくても、フィルターを付けないとすべて の星像に収差によるぼけが発生します。試しに300mmの画像で500個の星を選ん で位置測定誤差を評価してみると、赤外カットフィルターを付けると1/20ピク セル(0.6秒角)の精度がありますが、フィルターなしの場合はぼけのために 1/10ピクセル(1.0秒角)の精度しか出ませんでした。

更に、赤い星はCCDでは極端に明るく写りますので、ほとんどが新天体候補ND や変光星候補RMになります。特に赤い星にはミラ型などの変光星が多く、これ らはGSC等では極端に暗い等級が記載されていることも少なくありません。そ のため、PIXYシステムによって出力される新天体候補NDの多くは、自動同定シ ステムによってミラ型やIRAS天体と同定されます。

PIXYシステムによって変光星候補がRMとして出力されます。しかし、CCDとGSC のような星表とは感光域が違っていますので、単純に両者の光度を比較して違っ ていれば変光していると言うことはできません。そこで、近いうちに2枚の画 像を比較するプログラムを公開します。これにより、数日前の画像と比較する ことで、真に変光している可能性のあるものだけを選別できるようになります。 また、300mmレンズで彗星を撮影すると、移動がはっきり分かります。そのた め、同じ夜に撮影した2枚の画像を比較して、移動天体を検出することもでき ます。

M31, M33, M110 等の明るい銀河のデータは、GSCには載っていません。そのた め、PIXYシステムによってこれらが新天体候補として出力されました。また、 M33の周囲およそ5x5度の範囲を撮影すると、GSCに掲載されているデータの多 くが写りません。これらはほとんどGSCのカタログエラーでしょう。佐藤実氏 がこのようなカタログエラー候補を独自にまとめていますが、M33の周囲のカ タログエラー候補の多くが、自動同定システムによって佐藤氏のリストと同定 されました。佐藤氏のリストは

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/doc/reference-j.html

で参照できます。

散開星団が写っている画像では星が込み入っています。このような場合には PIXYシステムが正しくペアリングできずに誤って新天体候補やカタログエラー を出力してしまうのではないかと危惧していましたが、個々の星像が問題なく GSCのデータとペアになったようです。一方、月明等によって、画像の端で極 端に背景が明るくなっている場合や、画像に地上風景が写った場合には、現在 のPIXYではうまく対応できず、大量の誤検出をしたり、検査自体に失敗したり しました。

300mmレンズでは、ムーニエ-デュプイ彗星(C/1997 J2)、LINEAR彗星(C/1998 M5)、ハリントン-エーベル彗星(52P)の3彗星を狙いました。目盛環による導 入でしたが、導入精度はいまいちでした。残念ながら、ムーニエ-デュプイ彗 星は彗星が写野に入りませんでした。

さて、PIXYシステムで検査する時には、最初に画像の概略の撮影方向と画角を 入力します。彗星を狙った画像は、彗星の予報位置を入力としました。ムーニ エ-デュプイ彗星の画像では、予報位置は

  R.A.=21h11m21s.12  Decl.=+02o36'20".8

でしたので、概略の位置としてこの値を入力しました。しかし、実際には写野 1つ分ほどずれていて、入力した位置は画像の外でした。それでも、PIXYシス テムはマッチングに成功し、正しい撮影領域を出力しました。結果的に、画像 の中心と四隅の位置は次のように求められました。

  21 21 33.18  +01 07 08.5                          21 21 35.49  +03 45 19.6
                            21 18 03.14  +02 26 21.2
  21 14 31.10  +01 07 18.2                          21 14 32.77  +03 45 28.4

このことは、画像がどこを撮影したものか不明になった時でも、だいたいの位 置を指定してPIXYシステムを実行すれば、撮影領域を求めることができる可能 性があることを示唆しています。実際、多くの画像で初期入力位置を適当に変 えてみても、問題なく検査できて正しい撮影領域が出力されます。しかし、画 像によっては初期値に強く依存したり、場合によっては正確な中心の座標を指 定してもマッチングに失敗することも稀にあります。

PIXYシステムでの検査の後に自動同定システムを実行し、PIXYの出力結果から 既知の変光星を除去し、新天体がないかどうか調査しました。前述の表の多く は既知変光星と同定され、残ったものの多くは誤検出でしたが、それ以外の新 天体候補がいくつか残りました。

35mmレンズによる画像はGSC 1.1と比較して検査を行い、以下の3つの星が新 天体候補として残りました。最初の行が検出位置と光度です。GSCで近傍を調 べると、以下のように暗いデータしかありません(末尾の数値は検出位置との 差です)。

R.A.=08 33 05.19  Decl.=+55 21 21.7  mag= 6.99
GSC 3800-0878  08 33 07.89  +55 21 27.6  12.56     23.8"
GSC 3800-0887  08 33 05.37  +55 21 18.3  11.01      3.8"

R.A.=08 27 38.12  Decl.=+55 11 15.6  mag= 7.46
GSC 3800-1228  08 27 38.70  +55 11 20.2  11.03      6.8"
GSC 3800-1253  08 27 35.39  +55 12 20.0  14.67     68.5"

R.A.=08 26 59.97  Decl.=+53 37 45.6  mag= 7.73
GSC 3797-1249  08 26 59.48  +53 37 46.0  11.19      4.4"
GSC 3797-1291  08 26 59.39  +53 37 07.4  14.85     38.6"

しかし、写真星図を調べてみると、それぞれの位置に7.5等級、8等級、7等級 の星像があり、新星の可能性は消えました。勿論未知の変光星である可能性は ありますが、3星の位置が非常に近く、何らかの理由でGSCからデータが洩れ ているだけの可能性が高いです。

180mmの画像はGSC 1.1と比較して検査を行い、以下の3つの星が新天体候補と して残りました。しかし、USNO-A1.0を参照したところ、いずれも対応するデー タが記載されていました。即ち、GSCの記載もれ、ということでした。

R.A.=00 36 26.54  Decl.=+56 01 04.6  mag=11.47
USNO-A1.0 1425.00875786  00 36 26.598  +56 01 04.86  11.5R  12.2B      0.6"

R.A.=00 55 22.24  Decl.=+59 28 05.5  mag=10.87
USNO-A1.0 1425.01303964  00 55 21.931  +59 28 07.00  11.8R  15.4B      2.8"

R.A.=05 42 56.95  Decl.=+12 55 36.3  mag=11.57
USNO-A1.0 0975.01921527  05 42 56.893  +12 55 39.57  12.2R  16.6B      3.4"
USNO-A1.0 0975.01921721  05 42 57.422  +12 55 32.84  13.6R  15.7B      7.7"

300mmの画像はUSNO-A1.0と比較して検査を行い、以下の2つの星が新天体候補 として残りました。しかし、GSC 1.1を参照したところ、いずれも対応するデー タが記載されていました。即ち、USNO-A1.0の記載もれ、ということでした。

R.A.=21 18 14.82  Decl.=+01 40 56.6  mag=11.93
GSC 0528-1773  21 18 14.88  +01 40 54.3  12.98      2.4"
GSC 0528-1773  21 18 14.87  +01 40 56.0  11.60      0.9"

R.A.=05 26 10.77  Decl.=+34 33 16.9  mag=11.61
GSC 2411-0572  05 26 10.70  +34 33 20.6  11.64      3.8"

このように、GSC 1.1にしか記載されていない星や、逆にUSNO-A1.0にしか記載 されていない星があり、確認には注意を要します。

但し最後の例は、USNO-A1.0に

USNO-A1.0 1200.03333311  05 26 10.715  +34 33 20.69  99.9R  14.8B      0.2"

というデータがあります。この星が赤い星である可能性もあります。

尚、美スターサーベイの画像はまだほとんどが未公開となっています。理由は、 現在のPIXYシステム及び自動同定システムが不完全であるため、ノイズや同定 ミスのチェックのために人手による検査が必要とされているためです。その多 くは自動的に処理可能だと思われるので、まずシステムの改良に取り組みます。 その後過去の画像をすべて測定し、画像と測定結果を公開していきます。

また、10月から、美スターサーベイから自宅近辺での上尾サーベイに移行して います。現在はまだサーベイのテスト段階ですが、近いうちに本格的なサーベ イを開始できると思います。テストの最中にも明るい新天体が発見されていま すが、さそり座新星(6.9等)は撮影領域の外でイェーガー彗星(C/1998 U3, 12.5 等)は極限等級以下で、それぞれ上尾サーベイの範囲外でした。

P.S.
過去のMISAOプロジェクト・アナウンスメイルは

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/index-j.html
で閲覧できます。

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吉田 誠一 / Seiichi Yoshida
早稲田大学大学院理工学研究科情報科学専攻修士2年 村岡研究室
seiichi@muraoka.info.waseda.ac.jp  GFB03015@nifty.ne.jp
http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/index-j.html

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