MISAO Project

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1999年2月26日

    PIXYシステムの新バージョンのリリース    

MISAOプロジェクト・アナウンスメイル (1999年2月26日)

MISAOプロジェクトの吉田誠一です。

MISAOプロジェクトのホームページでは、天体画像自動検査システムPIXYの最 新版(1999年2月17日版)を公開しました。

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/index-j.html

今回のバージョンでは、単に1枚の画像をGSCやUSNO-A1.0といった星表と比較 するだけでなく、既知変光星の光度を蓄積して誤りを除外したり、要注意天体 の光度を蓄積して新変光星を発見したり、過去画像と比較してノイズではない 真の新天体候補を探したりする機能が加えられています。上尾サーベイチーム (門田健一と吉田誠一)でも、実際にこれらの機能を用いて、新天体の捜索や既 知変光星の光度観測を自動的に行っています。

新しい機能が追加されたため、ドキュメントも更新しました。PIXYシステムの ホームページでは、新たにセカンド・ステップという項目を設け、以下のドキュ メントを公開しました。

  • 同定データベースの構築
  • 同定
  • 光度報告書作成
  • 光度データベースの構築
  • 新天体の捜索

これらのドキュメントは、ドキュメントパッケージとして、「ダウンロード」 のページからまとめて取得できます。

●同定

PIXYシステムの -identify オプションを使うと、検出された星像と、既知変 光星との同定を行うことができます。

同定のためには、予め既知変光星のデータベース(同定データベース)を構築し ておく必要があります。その手順を、「同定データベースの構築」で解説して います。同定の対象となる既知天体の種類は次の通りです。

  • GCVS2000
    全天の主な変光星を網羅したカタログ(34,760個)
  • GCVS_REV
    GCVS2000に対する修正
  • TmzV
    高見澤今朝雄氏が発見した新変光星(2月17日現在230個)
  • HadV
    長谷田勝美氏が発見した新変光星(2月17日現在9個)
  • OGLE
    MACHO捜索で発見された長周期/非周期新変光星
  • 1995年以降の新星
    IAUCで発表された新星のリスト
  • 1996年以降の超新星
    IAUCで発表された超新星のリスト
  • NSV
    変光を疑われている星のカタログ(14,811個)
  • IRAS PSC
    赤外線観測衛星IRASのPoint Source Catalog
  • IRAS FSC
    赤外線観測衛星IRASのFaint Source Catalog
  • Markarian
    紫外過剰銀河のカタログ(1,525個)
  • Veron
    クエーサー、活動銀河核、BL Lac型天体等のカタログ(15,106個)
  • STM
    佐藤実氏がまとめた、GSCの「乾板のキズ」候補(1,757個)
  • MCG
    微光銀河のカタログ(29,003個)

これらのカタログは、「カタログ一覧」のページ:

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/doc/reference-j.html

から取得できます。PIXYシステムに付属のプログラムで同定データベースに登 録しておけば、その後の画像にこれらの天体が写っていた場合は、自動的にそ の判定が行われます。

この中で、

  • TmzV
  • HadV
  • 1995年以降の新星
  • 1996年以降の超新星

は、常に最新の状態に更新されています。

もし、この他に利用できる既知天体のカタログをご存知の方がおられましたら、 メイルでお知らせ下さい。

尚、MISAOプロジェクトでは、NGC2000 (NGC天体7,840個とIC天体5,386個のカ タログ)も利用していますが、現時点ではWWWから入手できるファイルを直接同 定データベースに登録できるようにはなっていません。

●光度報告書作成

PIXYシステムの -report オプションで、検出した星像の測定光度のレポート を作成することができます。

レポートの書式は次のようなものです。

HT UMA  7.5     = GSC3452.1191 = IRAS 11455+4848
IRAS 11469+4842 <14.4
J114833.70+484313.1     13.5
GSC3452.1111    14.9
GSC3452.1127    15.6
GSC3452.1130    13.3
GSC3452.1162    12.0:
GSC3452.1256 + GSC3452.1259     12.3
GSC3452.1458 + GSC3452.1498     13.2    (NGC 3896, MCG+08-22-008)

現在の報告書は、VSNET等の公的機関にそのまま報告できる形式にはなってい ません。これは、私がVSNET等に報告するための書式を知らないためです。も しその書式をご存知の方がおられましたら、メイルでお知らせ下さい。 -report オプションで、直接報告できる書式で報告書を作成するように修正し ます。

●光度データベースの構築

PIXYシステムの -update オプションで、PIXYシステムで検出した星像のうち、 既知変光星と同定されたもの、もしくはPIXYシステムによって要注意天体と判 定されたものの光度をデータベースに蓄積することができます。

光度をデータベースに蓄積することで、以下のような利点が生まれます。

  1. 測定ミスが判断できる

    PIXYシステムで誤った光度を測定した場合、画像1枚を検査した結果 だけでは、誤りを発見することはできません。しかし、各画像から測 定した結果をデータベースに蓄積することで、変光星ごとに、複数の 光度を並べてみることができます。誤ったデータが含まれている場合 は、他に比べて明らかに数値が異なるため、誤りと判断することがで きます。

  2. カタログエラーや、カタログからの欠落が発見できる

    PIXYシステムでNC(カタログに記載されている星が検出されない)となっ た星は、実在しないエラーである可能性があります。逆に、ND(検出 されたがカタログに記載されていない)となった星は、カタログから 欠落している星の可能性があります。但し、1枚の画像を検査した結 果だけでは、検出ミス、ノイズ、同定ミス等の可能性があります。光 度データを蓄積すると、真のカタログエラーであれば、常にNCとなり、 検出されないというデータが並ぶことになります。また、真のカタロ グから欠落している星であれば、常にNDとなり、一定の光度が並ぶこ とになります。

  3. 新変光星が発見できる

    PIXYシステムでは、測定光度がカタログに記載されている値と大きく 異なるものを要注意天体RMとして出力します。これらは変光星の可能 性がありますが、1枚の画像を検査した結果だけでは判断できません。 光度データを蓄積し、長い期間のデータを並べることで、本当に変光 しているかどうかの判断を行えるようになります。

●新天体の捜索

PIXYシステムの -survey オプションで、新天体の自動捜索を行うことができ ます。

この機能は少々特殊で、ある一夜の画像をまとめて扱います。撮影時には、ど の領域も必ず2枚ずつ画像を撮影しておく必要があります。また、過去に同じ 領域を撮影した画像があることが望ましいです。

新天体捜索の前に、これらのすべての画像をPIXYシステムで検査し、PXFファ イルを生成しておきます。また、既知変光星との同定を行っておきます。更に、 光度データベースへの登録まで済ませておきます。

PIXYシステムが出力する、星表に掲載されていない星(ND)は、実際には以下の いずれかに該当します。

  1. 新天体
  2. 明るく写った変光星
  3. 星表から欠落している普通の星
  4. 誤検出

予め既知変光星との同定を行っておくことで、2の明るく写った変光星を除外 します。

次に4の誤検出を除外します。ほぼ同じ時刻に撮影した2枚の画像がある場合、 1または3の実在する星は、どちらの画像でもほぼ同じ位置にほぼ同じ光度で検 出されます。一方、4の誤検出は、ほぼ同じ位置にほぼ同じ光度で検出される ことはまずありません。そこで、一夜の画像をまとめて扱い、検出されたNDの 中から、複数の画像から同じ位置に同じ光度で検出されたものだけを実在する ものとし、それ以外を誤検出として除外します。

実在する星のうち、1の新天体は、過去の画像からは検出されませんが、2の星 表から欠落している普通の星は、過去の画像からも同じ位置に同じ光度で検出 されます。そこで、過去に同じ領域を撮影した画像があれば、その画像の検査 結果を読み込み、新天体か普通の星かを調べます。

最終的に残ったものが、新天体候補となります。

新天体の自動捜索の例を紹介します。以下の例は、1999年1月8日に撮影したサー ベイ画像から発見された新天体候補です。赤経09h39m41s.63、赤緯+18o52'59".2 (ピクセルサイズは102.3")に、6.5等の明るさで検出されました。同一夜の2枚 の画像から検出されており、実在する星であることが分かります。また、1998 年12月17日にも同じ場所を撮影した画像があり、極限等級は9.0等であるにも 関わらず、この星は写っていないことが分かります。

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093941.63+185259.2-102.3
1998 Dec 17.68730       <8.9R   19981217/35mm/0900+2000-R-01.mtf                (  79.47, 288.33)
1998 Dec 17.70119       <9.0R   19981217/35mm/1000+2000-R-01.mtf                ( 571.19, 321.71)
1999 Jan  8.76706       6.5R    19990108/35mm/0900+2000-R-01.mtf        ND-00001        (  52.82, 287.70)
1999 Jan  8.77731       6.5R    19990108/35mm/1000+2000-R-01.mtf        ND-00001        ( 564.02, 305.46)
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画像名と天体の(x,y)座標が出力されていますので、確認してみますと、確か に1998年12月17日には存在しない星像が、1999年1月8日には写っています。し かし、Minor Planet Checker:

http://cfaps8.harvard.edu/~cgi/CheckSN.COM

で調べた結果、この星像は小惑星ベスタであることが判明しました。

これまでの上尾サーベイの活動で実際に発見された新天体候補を、ホームペー ジで公開しています。これらは、すべて本当の新天体ではありませんでしたが、 どのような天体像がPIXYシステムで発見されるかの参考になると思います。

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/ageo/candidate-j.html

P.S.
過去のMISAOプロジェクト・アナウンスメイルは

http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/misao/index-j.html
で閲覧できます。

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吉田 誠一 / Seiichi Yoshida
早稲田大学大学院理工学研究科情報科学専攻修士2年 村岡研究室
seiichi@muraoka.info.waseda.ac.jp  GFB03015@nifty.ne.jp
http://www.info.waseda.ac.jp/muraoka/members/seiichi/index-j.html

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