MISAO Project

English version       Home Page       Updated on January 11, 2000

MISAOプロジェクトの新変光星の発見経緯

1999年12月27日
門田健一、吉田誠一/MISAOプロジェクト

1997年4月、早稲田大学大学院の学生であった吉田誠一は、修士研究のテー マとして、多数の天体画像を集めたデータベースを構築し、その中から新天体 を発見する枠組の実現、及び新天体を発見するソフトウェアの開発を掲げた。 冷却CCDカメラの普及により、世界中で膨大な天体画像が撮影されるようになっ たが、大部分の画像は新天体の有無を検査されることもなく、画像の持つ情報 はほとんど活用されていなかった。この現状を改善すべく、世界中の天体画像 を新天体の発見や既知天体のデータ取得に活用することを目指したMISAO (Multitudinous Image-based Sky-survey and Accumulative Observations: 多数の人々の天体画像を基にした全天サーベイ及び継続的な天体観測)プロジェ クトを開始した。

膨大な天体画像を扱うMISAOプロジェクトの活動では、画像検査の自動化が 必須と考えた吉田は、画像から星を検出し、CD-ROMとして入手可能なカタログ と比較して、すべての星の位置と光度を測定して、新天体候補を出力するよう な、天体画像自動検査システムの開発を開始した。これがPIXY(PIXII: Practical Image eXamination and Inner-objects Identification:天体画像 の検査及び写野内の天体の照合を行う実用的な)システムである。吉田は、ほ ぼ1997年いっぱいをこのソフトウェアの開発に費した。何人かの方から天体画 像を提供して頂き、試行錯誤を繰り返しつつ、システムの開発を進めた。この 期間はまだシステムが未熟なため、天体画像の中に新天体が写っているかどう かの検査は行なっていない。しかし、1998年初頭には、システムがおおよそ動 作するようになった。

1998年3月、MISAOプロジェクトに門田健一が加わり、共同で試験的なサーベ イと、PIXYシステムの改良を開始した。当初は、茨城県美和村の花立山天文台 (美スター)にて吉田・門田の2名で、門田の指導により、CCDを使った撮影を行 なった。しかし、週末だけの観測だったので、天候にも恵まれず、1998年3月 から1998年9月の7ヶ月間での撮影回数は4回であった。得られた200枚ほどの画 像は、システムの改良に役立ったものの、新天体の発見には至らなかった。

1998年10月からは、両者の共同出資でCCDを購入し、門田が埼玉県上尾市の 自宅付近で、門田の機材を用いてサーベイを開始した。撮影した画像は、吉田 がPIXYシステムを使って画像の検査を行なうという体制を確立した。この頃、 高見澤今朝雄氏の継続的な新変光星の発見や、長谷田勝美氏の最初の新変光星 の発見に刺激され、新変光星の捜索を念頭に置くようになった。

当初は焦点距離35mmのカメラレンズでサーベイを行なったが、より暗い星を 検出するために、1999年1月からは、焦点距離を180mmにアップして、サーベイ を続けた。しかし、180mmレンズで同じ場所を1ヶ月ほどの期間を空けて撮影し、 PIXYシステムで検査を行なったが、新天体は見つからなかった。だが、既知の 変光星や、彗星のように見えるゴースト像などが確実に検出されるようになり、 PIXYシステムの新天体発見能力は実用レベルに達していた。PIXYシステムで検 出された天体の光度をデータベース化し、後に同じ領域の画像を得た時に、自 動的に比較できる仕組みを整えた。また、既知の変光星の自動チェックも行な えるようにした。

1999年3月、吉田が門田の観測画像をPIXYシステムで検査したところ、1999 年3月22日に口径18cmF5.5反射望遠鏡(焦点距離990mm)で桜井天体(V4334 Sgr) を観測した画像から、15等の新天体を検出した。1999年2月12日に桜井天体を 観測した画像からは16.4等以下で検出されなかったことから、新天体として出 力されたものである。この新天体は、1999年3月31日の門田による確認観測か ら、14等まで増光していることと、移動していないことが認められ、1999年4 月3日にMISAOプロジェクト発見による新変光星MisV0001として、吉田が報告し た。

新変光星の発見は、正式にはIAU(国際天文学連合)の諮問機関であるモスク ワ大学シュテルンベルグ天文協会に報告し、変光が確認され、GCVS(General Catalog of Variable Stars)に登録された時点で、公式に認められることにな る。しかし、近年は膨大な変光星が発見されているため、単独の組織では扱い きれなくなり、この方法はほとんど機能しなくなっている。そのため、現在で は、変光星発見者は独自に番号を付けて論文などで発表するという方法を採り、 他の捜索者や研究者もそれを認めるということが通例となっている。MISAOプ ロジェクトで見つかった変光星には、MisV(MISAO Variables)と名付けて発表 している。

その後、口径18cm望遠鏡でMisV0001を確認観測した画像から、更に数個の新 変光星が発見された。同時に、門田が1999年4月より開始した口径16cmF3.3反 射望遠鏡(焦点距離530mm)によるサーベイ画像からも、数個の新変光星が発見 された。これらの変光星は12等から15等ほどであった。口径16cm反射望遠鏡は、 およそ1.5度×1度の視野角で、20秒の露出時間で16等の恒星が捉えられる。 PIXYシステムを使うと、天の川を撮影した画像では、1枚当たり2000〜7000個 ほどの恒星が自動検出される。これらの結果から、口径16cmもしくは18cmの反 射望遠鏡を使って天の川の領域を継続して撮影すれば、多数の新変光星を発見 できると実感した。そして、写野の広い口径16cm反射望遠鏡を用いて天の川の 中を撮影するという、新変光星サーベイが確立した。

1999年4月から1999年11月末までの8ヶ月間で、門田は、30回のサーベイを行 ない、およそ3000枚の画像を得た。サーベイは野外で行われ、望遠鏡は毎回門 田が自宅から運搬し、組み立てた。また、コンピュータ制御されていない機材 を使用しているため、導入、撮影、画像保存などはすべて手作業で続けられた。 サーベイ画像はすべて吉田がPIXYシステムで検査した。更に、門田が18cm反射 望遠鏡で彗星や既知変光星を観測したおよそ2000枚の画像も、同様に検査した。 その結果PIXYシステムが自動検出した恒星数は、延べ約1500万個に上る。

1回のサーベイでは、約100枚のサーベイ画像が得られ、約40万個の星が検出 される。但し、ノイズを除外するために、同じ写野を2枚ずつ撮影しているの で、実際の恒星数は約20万個である。PIXYシステムで検査すると、過去に同じ 領域を撮影した画像から得られたデータと比較して、約200個の変光星候補だ けが出力される。こうして絞り込まれた候補を吉田が目で確認し、暗すぎて不 確実なものや、近接重星が分離できなかったものなどを除外する。その結果、 最終的には50〜100個の新変光星が発見される。

吉田が選別した新変光星は、確実を期すために、すべて門田が画像を確認し、 疑わしいものは公表を控えるという、二重のチェック体制でサーベイを続けた。 MISAOプロジェクトの新変光星は、すべて目で見て確実に変光していると判断 できるものに限っているため、大部分が0.7等以上変光しているものである。 また、小惑星のチェックも行なっている。既知変光星との同定については、京 都大学の加藤太一氏にもご協力いただいた。継続してサーベイを行なった結果、 PIXYシステムを使って吉田・門田が共同で発見した新変光星は、1999年12月末 で739個に達した。

Copyright(C) MISAO Project (comet@aerith.net). All rights reserved.