WBS(Work Breakdown Structure)によるプロジェクト管理

作成:2007年12月17日

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ソフトウェア開発プロジェクトでは、短期開発の要求が高まっている。受託開発も例外ではない。特定の顧客から長期に渡って大型案件を請け負っている場合でも、開発期間はますます短縮される傾向にある。

納期に対する高い要求を満たすには、プロジェクト管理が重要である。正確な見積もりと、的確な進捗管理ができなければ、短期開発では容易にデスマーチに陥ってしまう。

筆者の開発プロジェクトでは、WBS (Work Breakdown Structure) を使ったプロジェクト管理を導入した。WBSは見積もりのための強力な道具として広く使われている。筆者はさらに、実績も管理できるようにWBSを拡張し、見積もりから進捗管理まで一貫して管理できる手法を確立した。

ここでは、筆者が拡張したWBSの書き方と、それを使ったプロジェクト管理の手法を提案し、実際の開発業務に適用した経験から得られたWBSの運用ノウハウを紹介する。また、本手法の導入が開発プロジェクトにもたらした効果について考察する。

個々の技術者の自主性が尊重される組織では、技術者はそれぞれが己が裁量でスケジュールを組み、責任をもって業務に当たることを求められる。ここで提案する管理手法は、このような組織に適している。

最後に、本稿で提案する管理手法に即した専用のソフトウェアを作ることを提案する。現状ではExcelを使って運用しているため、その表現力や操作性には限界がある。だが、専用のソフトウェアを作り、ここで述べる機能を実装することができれば、WBSによるプロジェクト管理をさらに発展させることができるだろう。

目次

  1. 短期開発に負けないプロジェクト管理
    1. 短期開発で起こる問題
    2. 見積もりの重要性
    3. 進捗管理の重要性
  2. プロジェクト管理の強力な道具・WBS
    1. WBS (Work Breakdown Structure) とは
    2. ソフトウェア開発におけるWBSの書き方
    3. WBSによって見積もりが改善する
    4. WBSでは進捗管理は改善しない
  3. 進捗管理にも適した、拡張版WBSの提案
    1. 実績も記録するようにWBSを拡張する
    2. 拡張版WBSを運用する
      1. 実績は正確に記入する
      2. 進捗報告や休暇なども計上する
      3. 追加作業は遅延として計上する
      4. 見積もりのレベルに応じて、マイルストーンを設定する
      5. WBSの記入は、メンバー全員で行う
    3. 拡張版WBSから、プロジェクトの状況を読み取る
      1. 進捗上の問題がある個所を特定する
      2. 担当者の作業状況を把握する
      3. 追加作業や仕様変更の影響を把握する
      4. 納期を見極める
      5. 作業の遅れを把握する
  4. WBSが開発プロジェクトにもたらす効果
    1. 進捗状況の「見える化」による、メンバーの意識の向上
    2. 作業規模の過小評価の防止
    3. 週間進捗報告の弊害からの脱却
  5. 専用ソフトウェアによる表現力と操作性の向上
    1. 作業項目を多角的に分類する
    2. 業務外や休暇を調整する
    3. さまざまな線表(ガントチャート)を描く
      1. 計画ベースの線表と、実績ベースの線表
      2. 進捗率と、残り作業工数
      3. タスクの並列化
      4. 特定の日に限定されたタスク
      5. 多角的な線表
  6. コラム
    1. 進捗管理を行う単位
    2. パーセントでの記入をしない
    3. プロジェクト管理の工数の扱い方
    4. 遅れた理由は必ず説明する

謝辞

WBSによるプロジェクト管理手法を確立するにあたって、実業務における効果や改善案を指摘して頂いた齊藤智也氏、吉田晃氏、道休研司氏、中山央士氏に感謝致します。

また、この管理手法をさらに発展させるための提言について、議論に加わって頂いた杉田真哉氏、富山泰子氏、小森正樹氏、数馬洋一氏に感謝致します。

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