WBS(Work Breakdown Structure)によるプロジェクト管理 (1/5)

短期開発に負けないプロジェクト管理

作成:2007年12月17日

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ソフトウェア開発プロジェクトでは、短期開発の要求が高まっている。受託開発も例外ではない。特定の顧客から長期に渡って大型案件を請け負っている場合でも、開発期間はますます短縮される傾向にある。

期間が短いため、開発プロジェクトの現場では、さまざまな問題が起こる。納期に対する高い要求を満たすには、短期開発でも問題を起こさないように、プロジェクト管理を改善する必要がある。特に重要となるのが、見積もりと進捗管理の改善である。

目次

  1. 短期開発で起こる問題
  2. 見積もりの重要性
  3. 進捗管理の重要性

短期開発で起こる問題

開発期間が短くなると、納期までに開発を終えられない状態、即ち、デスマーチに陥る危険性が高くなる。

予定通りに開発を終えられそうにない状況になると、開発担当者が残業や休出したり、新たなリソースを追加することで、カバーすることになる。だが、カバーしきれない場合は、納期を延ばしたり、機能を制限するといった手段しか無くなる。顧客や市場との約束を守れず、会社の信頼性を損なう結果となる。

開発が予定よりも遅れると、開発工程の終盤に実施される作業、特にテストにしわ寄せが及ぶことが多い。そのため、結果的に品質の悪い製品をリリースしてしまう危険性が高くなる。仮に納期までにリリースしたとしても、品質が悪ければ、やはり、会社の信頼性を損なう結果となる。

見積もりの重要性

納期を守れなくなるプロジェクトの多くは、見積もりが不十分だったことが主な原因の1つになっている。

費用の見積もりと比べて、期間の見積もりはシビアである。AとB、2つの開発案件があったとしよう。Aで見積もりより工数がかかっても、それ以上にBの工数を削減できれば、トータルでは利益を得られる。だが、期間については、A、Bのどちらも約束した期日までに完成させる必要がある。

費用の見積もりと、期間の見積もり
費用の見積もりと、期間の見積もり

見積もりには、どうしても誤差が生じる。昔は、開発作業を前倒しで着手したり、納期までに余裕を設けることで、見積もりの甘さによるリスクを吸収できたかもしれない。だが、納期に対する要求が高まっている現在では、過大な余裕を設けることは許されない。

余裕を大きく設定すればリスクは少ないが、競合他社に仕事を奪われることにもなりかねない。とはいえ、納期を守れる保証がないまま、不用意に短期間で受注してしまう訳にもいかない。見積もりの誤差を少なくして、納期までの余裕を必要最小限に抑える必要がある。

見積もり誤差を見込んだ納期の設定
見積もり誤差を見込んだ納期の設定

時には、ビジネス上の理由から、顧客から厳しい納期を指定されることも珍しくない。ここでも、正確な見積もりが重要となる。納期を守るために投入するリソース(工数すなわち費用)の調整、納期までに実現できる範囲の交渉などのために、正確で根拠のある見積もりを提示する必要がある。それができなければ、指示通りの納期で請け負った挙句、間に合わなくなり、顧客に迷惑をかけることになろう。

進捗管理の重要性

ただ、いくら正確な見積もりができたとしても、それだけでは不十分である。開発プロジェクトは、見積もりの通りに進むとは限らない。納期を守るためには、スタートする前に見積もりを検討するだけではなく、開発をスタートした後にも、随時、進捗を管理していくことが重要である。

スタートした開発プロジェクトには、さまざまな要因で、見積もりとのずれが生じる。下記はその一例である。

  • 作業が遅れた。
  • 見積もりが過小だった。
  • 見積もりで項目が抜けていた。
  • 追加作業が発生した。
  • 複雑なバグが発生し、解決に時間がかかった。
  • 兼務している業務が多忙になり、時間を取られた。
  • 社内の雑用が発生した。
  • 病欠した。

これらの要因による影響を把握し、必要な対策を取ることが、進捗管理である。そのためには、どのような要因でどれくらい影響が生じているか、開発プロジェクトが遅れているのかどうか、どれくらい遅れているのか、約束した期日にリリースできるのか、といった状況を把握しておく必要がある。

納期に対する要求が高まっている現在では、納期までに余裕がないプロジェクトが多くなっている。このような状況では、さまざまな要因による状況の変化を早く正確に掴み、常に軌道修正を行わなくてはならない。対策の遅れは、即、デスマーチに直結する危険性がある。見積もりの正確さとともに、進捗管理の優劣も、プロジェクトの成否の鍵を握る重要な要素となってきている。

見積もりと進捗管理を改善するにはどうしたら良いか。次章では、プロジェクト管理の道具として広く使われている、WBS (Work Breakdown Structure) を紹介し、その解決策を探る。

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